MIT Japanese III

Lesson 16 Reading C


「トラ」

 うちにはがいる。トラと言う。茶色しまの猫 だ。私はこの猫が大好きで、いつも一緒にいたいと 思っているのだが、仕事が新聞記者なので出張多く、 猫は一人ぼっち留守番している。この猫との出会いは去年の八月の暑い日、アパートの公園だった。本を読みに行ったのだが、その時ベンチのそばに 小 さなが置いてあった。何だろうと思って、その箱 を開けた。おもしろい物は入っていなかったが、その代わりにすごく小さな猫が入っていた。まだ目もよく開いていなくて、もうすかった。風邪をひいちゃうかも しれないと思って、コンビニにミルクを買いに寄ってから、かばんに猫を入れて連れて帰った。帰ってからお 皿にミルクを少し入れて、猫の近くに置いた。その子は少しずつ、少しずつミルクを飲んだ。か、かわいい!猫がこんなにかわいいと今まで思ったことがなかっ た。名前は茶色のしまだから、トラにした。その 日からトラは私のルームメートになった。

 先週も二日留守にした。農家のインタビューをし に京都から北海道まで行って来たのだ。トラがおみ やげを楽しみにしているだろうと思って、千歳空港で 北海道の魚も買っておいた。その日は、午後2時ごろ家に着いたが、どうも変だった。アパートの戸が開いていたのだ。あれ?かぎはかけてあったと思っていた が、 忘れちゃったんだろうか?電気も消したと思っていたが、ついていた。びっくりして、中をよく見た。網戸も全部開いていて、大切なハイビジョンテレビや コンピュータがなくなっていた。それにトラもいなくなっていた。

 「トラ〜!トラ〜!」外に出て3時間ぐらい歩いて何度も名前を呼 んだが、トラの声はどこからも聞こえてこなかった。もう六時でおなかもすいてきた。保健 所の人が連れて行ってしまったのかもしれない、と思って電話したが、の人が、そんな茶色の猫はいない、と言った。それを聞い て、晩ご飯も食べたくなくなっ てしまった。どこにいるんだろう。もう11月で外はかなり寒くなっているから、死んでしまっているかもしれない。

 その時、何か小さな声が本棚の方から聞こえた。 「ミヤァ〜、、、」トラだ!怖くて怖くてずっと本 棚の後ろに入って隠れていたのだ!トラは前より ずっと小 さく見えた。私はしばらくトラを抱いていたかった のだが、トラは二日間何も食べていなかったから、おなかに何も入っていなかったのだろう。すぐに北海道か らのおみやげの魚の方に行ってしまった。私より食べ物の方が大事なのかと思って、ちょっとむっとしたが、まあいい。私はトラと魚の写真を何枚もとった。テ レビはまた買えるが友だちはお金では買えない。

 その写真はフレームに入れて、今もアパートの本棚と会社のデスクに置いてある。


トラ tiger
しま stripe
猫(ねこ) cat
一緒(いっしょ)
新聞記者(しんぶんきしゃ)
出張(しゅっちょう)
多い(おおい) many
一人(ひとり)ぼっち all alone
留守番(るすばん)
出会い(であい)encounter, meeting
裏(うら)
公園(こうえん)
箱(はこ)box
毛(け)fur, hair
風邪(かぜ)
お皿(おさら)

農家(のうか)
北海道(ほっかいどう)
千歳空港(ちとせくうこう)airport in Hokkaido
窓(まど)
網戸(あみど)

呼ぶ(よぶ)
保健所(ほけんじょ)Public health center (responsible for animal control)
係(かかり)
死ぬ(しぬ)die

本棚(ほんだな)
怖い(こわい)scared, scary
隠れる(かくれる)hide
抱く(だく)embrace, hug
むっとする get irritated
何枚(なんまい)