こんな
事を
申し上げるのは、
決して、
あなたへの
厭がらせの
つもりでも
何でもございません。それは、
お
信じ
下さい。
私は、
困ります。
他の
いい
ところへ
お
嫁に行けば
よかった
等と、
そんな
不貞な、
ばかな
事は、
みじんも
考えて
居りません
のです
から。
あなた
以外の
人は、
私には
考えられません。
いつもの
調子で、
お
笑いになると、
私は
困って
しまいます。
私は
本気で、
申し上げている
のです。
おしまい
迄
お
聞き
下さい。あの
頃も、
いまも、
私は、
あなた
以外の
人と
結婚する
気は、
少しもありません。それは、
はっきりしています。
私は
子供の
時
から、
愚図
々々が
何より、
きらいでした。あの
頃、
父に、
母に、
また
池袋の
大姉さんにも、
いろいろ
言われ、
とにかく
見合い
だけでも
等と、
すすめられましたが、
私
にとっては、
見合いも
お
祝言も
同じ
ものの
様な
気がしていました
から、
かるがると
返事は
出来ませんでした。
そんな
お
かたと
結婚する
気は、
まるっきり
無かった
のです。
みんなの
いう
様に、
そんな、
申しぶんの無い
お
方だったら、
殊更に
私でなくても、
他に
佳い
お
嫁さんが、
いくらでも
見つかる
事
でしょう
し、
なんだか
張り合いの
無い
ことだと
思っていました。この
世界中に(
などと
言うと、
あなたは、
すぐ
お
笑いになります)
私でなければ、
お
嫁に行けない
ような
人の
ところへ
行きたい
ものだと、
私は
ぼんやり
考えて
居りました。
丁度その
時に、
あなたの
ほう
からの、あの
お
はなしがあった
のでした。
ずいぶん
乱暴な
はなしだったので、
父も
母も、
はじめ
から
不機嫌でした。
だって、あの
骨董屋の
但馬さんが、
父の
会社へ
画を
売りに
来て、
れいの
お喋りを、
さんざんした
揚句の果に、この
画の
作者は、
いまに
きっと、
ものになります。
どうです、
お嬢さんを
等と
不謹慎な
冗談を
言い出して、
父は、
いい加減に
聞き流し、
とにかく
画
だけは
買って
会社の
応接室の
壁に
掛けて置いたら、
二、三日して、
また
但馬さんが
やって来て、
こんどは
本気に
申し込んだと
いうじゃありませんか。
乱暴だわ。
お
使者の
但馬さんも
但馬さんなら、その
但馬さんに
そんな
事を
頼む
男も
男だ、と
父も
母も
呆れていました。でも、
あとで、
あなたに
お
伺いして、それは、
あなたの
全然
ご存じなかった
事で、
すべては
但馬さんの
忠義な
一存
からだったと
いう
事が、
わかりました。
但馬さんには、
ずいぶん
お
世話になりました。
いまの、
あなたの
御
出世も、
但馬さんの
御蔭よ。
本当に、
あなたには、
商売を
離れて
尽くして
下さった。
あなたを
見込んだと
いう
わけね。
これからも、
但馬さんを
忘れては、いけません。あの
時、
私は
但馬さんの
無鉄砲な
申し込みの
はなしを
聞いて、
少し
驚き
ながらも、
ふっと、
あなたに
お
逢いして
みたくなりました。
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