何を
買いたい、
何を
食べたい、
何を
観たいとも
思いません。
家の
道具も、
たいてい
廃物利用で
間に合わせて
居りますし、
着物
だって
染め直し、
縫い直しますから
一枚も
買わずにすみます。
どうにでも、
私は、
やって行きます。
手拭掛け
一つ
だって、
私は
新しく
買うのは、いやです。むだな
事ですもの。
あなたは
時々、
私を
市内へ
連れ出して、
高い
支那料理 などを、ごちそうぢて
下さいましたが、
私には
ちっとも
おいしいとは
思われませんでした。
何だか
落ちつかなくて、
おっかなびっくりの
気持で、
本当に、
勿体なくて、むだな
事だと
思いました。
三百
円よりも、
支那料理よりも、
私には、あなたが、この
家の
お
庭のに、へちまの
棚を
作って
下さったほうが、
どんなに
嬉しいか
わかりません。
八畳間の
縁側には、
あんなに
西日が
強く
当る
のです から、へちまの
棚をお
作りになると、
きっと
工合がいいと
思います。
あなたは、
私が
あれほど
お願いしても、
植木屋を
呼んだらいいとか、
おっしゃって、
ご
自分で
作っては、
くださいません。
植木屋を
呼ぶ
なんて、
そんな
お金持の
真似は、
私は、いやです。
あなたに、
作っていただきたいのに、
あなたは、よし、よし、
来年は、
等と
おっしゃるばかりで、
とうとう
今日まで、
作っては
下さいません。
あなたは、
御
自分の
事では、ひどく、むだ
使いをなさるのに、
人の
事には、
いつでも
知らん顔をなさって
居ります。いつでした
かしら、
お
友達の
雨宮さんが、
奥さんの
御
病気で
困って、
御
相談に
いらした
時、
あなたは、
わざわざ
私を
応接間にお
呼びになって、
家にいま、
お金があるかい? と
真面目な
顔をして、お
聞きになるので、
私は、
可笑しいやら、ばか
らしくやらで、
困ってしまいました。
私が
顔を
赤くして、
もじもじしていると、
隠すなよ、
そこらを
掻き廻したら、
二十
円くらいは
出て来る
だろう、と
私に、
からかう
ように
おっしゃるので、
私は、
びっくりしてしまいました。
たった
二十
円。
私は、
あなたの
顔を
見直しました。
あなたは、
私の
視線を、
片手で、
払いのける
ようにして、
いいから
僕に
貸しておくれ、
けちけちするなよ、と
おっしゃって、
それから
雨宮さんのほうに
向って、
お互、
こんな
時には、
貧乏は、
つらいね、と
笑って
おっしゃるのでした。
私は、呆れて、
何も
申し上げたくなくなりました。
あなたは
清貧でも
何でも、ありません。
憂愁だなんて、いまの、
あなたのどこに、
そんな
美しい
影があるの
でしょう。
あなたは、その
反対の、
わがままな
楽天家です。
毎朝、
洗面所で、
いとこそうだよ、なんて
大声で
歌って
居られるでは、ありませんか。
私は
御
近所に
恥ずかしくてなりません。
祈り、シャヴァンヌ、
もったいないと
思います。
孤高だなんて、
あなたは、
お
取巻きのかたの
お
追従の
中でだけ
生きているのに
お
気が附かれない
のですか。
あなたは、
家へ
おいでになる
お客様たちに
先生と
呼ばれて、
誰かれの
画を、
片端からやっつけて、
いかにも
自分と
同じ
道を
歩むものは
誰も
無い
ような
事をおっしゃいますが、もし
本当にそう
お
思いなら、
そんなに
矢鱈に、ひとの
悪口を
おっしゃって
お客様たちの
同意を
得る
事など、
要らないと
思います。
あなたは、
お客様たちから、その場かぎりの
御
賛成でも
得たい
のです。なんで
孤高な
事が
ありましょう。
そんなに
来る
人、
来る
人に
感服させなくても、いいじゃありませんか。
あなたは、
とても
嘘つきです。
昨年、
二科から
脱退して、新浪漫派とやらいう
団体を、お
作りになる
時
だって、
私は、ひとりで、
どんなに
惨めな
思いをしていた
事
でしょう。
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