月夜でんしんばしら



宮沢賢治







ある 恭一ぞうりはいてすたすた 鉄道線路平らところあるいて 居りました

たしかに これは 罰金です。 おまけに もし 汽車きて から 長い など出ていたら、 いっぺんに なぐり殺されて しまった でしょう

ところがその は、 線路 見まわり工夫こず から 出た 汽車にも あいませんでした。 そのかわりどうも じつに 変てこもの見た のです

九日そらかかっていました。 そして うろこ雲そら いっぱいでした。 うろこぐもみんなもう ひかりはらわた までしみとおって よろよろすると いうふうでした。 その すきま から ときどき 冷たい ぴっかりぴっかり だしました

恭一すたすた あるいてもう 向う停車場あかりきれい見える とこ まで きましたぽつんとした まっ赤あかりや、 硫黄ほのおように ぼうとした 紫色あかり やらで、 ほそくしてみると、 まるで 大きな あるように おもわれるのでした。

とつぜん右手シグナル ばしらが、 がたんと からだゆすぶって白い 横木斜めに ぶらさげましたこれは べつだん 不思議でも なんでもありません

つまり シグナルさがったいう だけことです。 一晩十四 ある こと なのです

ところがその つぎ大へんです。

さっき から 線路 がわで、 ぐゎあん、ぐゎあんうなっていた でんしんばしら大威張りいっぺんに ほう歩きだしましたみんな 六つ瀬戸ものエボレット飾りてっぺんはりがねつけた 亜鉛しゃっぽかぶって片脚ひょいひょい やって行く のですそして いかにも 恭一ばかにした ようにじろじろ 横めみて 通りすぎます

うなりだんだん 高くなっていまいかにも 昔ふう立派軍歌変ってしまいました。

「ドッテテドッテテ、ドッテテド、

でんしんばしらぐんたい

はやさ せかいたぐいなし

ドッテテドッテテ、ドッテテド

でんしんばしらぐんたい

きりつ せかいならびなし。」

一本でんしんばしらが、 ことに そびやかしてまるで うで木がりがり 鳴る くらいにして 通りました

みる向うを、 六本 うで木二十二瀬戸ものエボレットつけた でんしんばしらが、 やはり いっしょ軍歌うたって 進んで 行きます

「ドッテテドッテテ、ドッテテド

二本 うで木工兵隊

六本 うで木竜騎兵

ドッテテドッテテ、ドッテテド

いち れつ 一万 五千

はりがね かたく むすび たり。」

どういう訳か二本はしらうで木組んでびっこを引いて いっしょやってきましたそして いかにも つかれた ように ふらふら ふってそれから まげて ふうと 息を吐きよろよろ たおれそうになりました。 

すると すぐ うしろ から 来た 元気のいい はしらどなりました

おいはやく あるけはりがねたるむ じゃないか。」

ふたりいかにも 辛そうに、 いっしょこたえました

もう つかれて あるけないあしさき腐り出したんだ。 長靴タール なにも もう めちゃくちゃになってるんだ」

うしろはしらもどかしそう叫びました

はやく あるけあるけきさまらうちどっちか参って一万 五千 みんな 責任があるんだぞ。 あるけ ったら。」

二人しかたなく よろよろ あるきだしつぎからつぎはしらどんどん やって来ます