「ドッテテドッテテ、ドッテテド
槍を
かざれる
とたん帽
すねは
はしらの
ごとくなり。
ドッテテドッテテ、ドッテテド
肩に
かけたる
エボレット
重き
つとめを
しめす
なり。」
二人の
影も
もう
ずうっと
遠くの
緑青色の
林の
方へ
行ってしまい、
月が
うろこ雲
から
ぱっと
出て、
あたりは
にわかに
明るくなりました。
でんしんばしらは
もう
みんな、
非常な
ご機嫌です。
恭一の
前に
来ると、
わざと
肩を
そびやかしたり、
横めで
わらったりして
過ぎるのでした。
ところが
愕いた
ことは、
六本
うで木の
また
向うに、
三本
うで木の
まっ赤な
エボレットを
つけた
兵隊が
あるいている
ことです。
その
軍歌は
どうも、
ふしも
歌も
こっちの
方と
ちがう
ようでしたが、
こっちの
声が
あまり
高い
ために、
何を
うたっているのか
聞きとる
ことが
できませんでした。
こっちは
あいかわらず
どんどん
やって行きます。
「ドッテテドッテテ、ドッテテド、
寒さ
はだえを
つんざくも
などて
腕木を
おろす
べき
ドッテテドッテテ、ドッテテド
暑さ
硫黄を
とかす
とも
いかで
おとさん
エボレット。」
どんどん
どんどん
やって行き、
恭一は
見ているの
さえ
少し
つかれて
ぼんやりなりました。
でんしんばしらは、
まるで
川の
水の
ように、
次から次と
やって来ます。
みんな
恭一の
ことを
見て
行く
のです
けれども、
恭一は
もう
頭が
痛くなって
だまって
下を
見ていました。
俄かにに
遠く
から
軍歌の
声に
まじって、
「お
一二、
お
一二、」と
いう
しわがれた
声が
きこえてきました。
恭一は
びっくりして
また
顔を
あげて
みますと、
列の
横を
せいの
低い
顔の
黄色な
じいさんが
まるで
ぼろぼろの
鼠色の
外套を
着て、
でんしんばしらの
列を
見まわし
ながら
「お
一二、
お
一二、」と
号令を
かけて
やってくるのでした。
じいさんに
見られた
はしらは、
まるで
木の
ように
かたくなって、
足を
しゃちほこばらせて、
わきめも
ふらず
進んで行き、その
変な
じいさんは、
もう
恭一の
すぐ
前
まで
やってきました。
そして
よこめで
しばらく
恭一を
見て
から、
でんしんばしらの
方へ
向いて、
「足い。
おいっ。」 と
号令を
かけました。
そこで
でんしんばしらは
少し
歩調を
崩して、
やっぱり
軍歌を
歌って
行きました。
「ドッテテドッテテ、ドッテテド、
右と
ひだりの
サアベルは
たぐいもあらぬ
細身
なり。」
じいさんは
恭一の
前に
とまって、
からだを
少し
かがめました。
「今晩は、
おまえは
さっき
から
行軍を
見ていたの
かい。」
「 ええ、
見てました。」
「そうか、
じゃ
仕方ない。
ともだちに
なろう、
さあ、
握手しよう。」
じいさんは
ぼろぼろの
外套
の
袖を
はらって、
大きな
黄色な
手を
だしました。
恭一も
しかたなく
手を出しました。
じいさんが
「やっ、」と
云ってその
手を
つかみました
すると
じいさんの
眼だま
から、
虎の
ように
青い
火花が
ぱちぱちっと
でたと
おもうと、
恭一は
からだが
びりりっとして
あぶなく
うしろへ
たおれそうになりました。
「ははあ、
だいぶ
ひびいたね、
これで
ごく
弱い
方だよ。
わしとも
少し
強く
握手すれば
まあ
黒焦げだね。」
兵隊は
やはり
ずんずん
歩いて行きます。
「ドッテテドッテテ、ドッテテド、
タールを
塗れる
なが靴の
歩はばは
三百
六十
尺。」
恭一は
すっかり
こわくなって、
歯が
がちがち
鳴りました。
じいさんは
しばらく
月や
雲の
工合を
ながめていましたが、
あまり
恭一が
青くなって
がたがた
ふるえているのを
見て、
気の毒に
なった
らしく、
少し
しずかに
斯う
云いました。
「おれは
電気
総長だよ。」
恭一も
少し
安心して
「電気
総長
というのは、
やはり
電気の
一種ですか。」と
ききました。
すると
じいさんは
また
むっとしてしまいました。
「わからん
子供だな。
ただの
電気
ではない
さ。
つまり、
電気の
すべての
長、
長
というのは
かしらと
よむ。
とりもなおさず
電気の
大将と
いう
ことだ。」
「大将なら
ずいぶん
おもしろい
でしょう。」
恭一が
ぼんやり
たずねますと、
じいさんは
顔を
まるで
めちゃくちゃにして
よろこびました。
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