「 はっはっは、
面白い
さ。それ、その
工兵も、その
竜騎兵も、
向うの
てき弾兵も、
みんな
おれの
兵隊
だからな。」
じいさんは
ぷっと
すまして、
片っ方の
頬を
ふくらせて
そらを
あおぎました。
それから
ちょうど
前を
通って行く
一本の
でんしんばしらに、
「 こらこら、
なぜ
わきめをするか。」と
どなりました。
するとその
はしらは
まるで
飛びあがる
ぐらい
びっくりして、
足が
ぐにゃんと
まがり
あわてて
まっすぐを
向いて
歩いて行きます。
次から次と
どしどし
はしらは
やって来ます。
「有名な
はなしを
おまえは
知ってる
だろう。
そら、
むすこが、
エングランド、
ロンドンに
いて、
おやじが
スコットランド、
カルクシャイヤに
いた。
むすこが
おやじに
電報を
かけた。
おれは
ちゃんと
手帳へ
書いておいたがね、」
じいさんは
手帳を
出して、
それから
大きな
めがねを
出して
もっともらしく
掛けて
から、
また
云いました。
「おまえは
英語は
わかる
かい、ね、
センド、
マイブーツ、
インスタンテウリイ
すぐ
長靴
送れと
こう
だろう、
すると
カルクシャイヤの
おやじ、
あわてくさって
おれの
でんしんの
はりがねに
長靴を
ぶらさげたよ
はっはっは、
いや
迷惑したよ。
それから
英国
ばかり
じゃない、
十二月
ころ
兵営へ
行って見ると、
おい、
あかりを
けして
こいと
上等兵
殿に
云われて
新兵が
電燈を
ふっふっと
ふいて
消そうとしているのが
毎年
五人や
六人はある。
おれの
兵隊には
そんな
ものは
一人もない
からな。
おまえの
町
だって
そうだ、
はじめて
電燈が
ついた
ころは
みんなが
よく、
電気会社では
月に
百
石
ぐらい
油を
つかう
だろうか
なんて
云った
もんだ。
はっはっは、
どうだ、
もっとも
それは
おれの
ように
勢力
不滅の
法則や
熱力学
第二則が
わかると
あんまり
おかしくもないがね、
どうだ、
ぼくの
軍隊は
規律が
いい
だろう。
軍歌にも
ちゃんとそう
云って
あるんだ。」
でんしんばしらは、
みんな
まっすぐを
向いて、
すまし込んで
通りすぎ
ながら
一きわ
声を
はりあげて、
「ドッテテドッテテ、ドッテテド
でんしんばしらの
ぐんたいの
その名
せかいに
とどろけり。」
と叫びました。
そのとき、
線路の
遠くに、
小さな
赤い
二つの
火が
見えました。
すると
じいさんは
まるで
あわててしまいました。
「 あ、
いかん、
汽車が
きた。
誰かに
見附かったら
大へんだ。
もう
進軍を
やめなくちゃ
いかん。」
じいさんは
片手を
高く
あげて、
でんしんばしらの
列の
方を
向いて
叫びました。
「全軍、
かたまれい、 おいっ。」
でんしんばしらは
みんな、
ぴったり
とまって、
すっかり
ふだんの
とおりに
なりました。
軍歌は
ただの
ぐゎあん、ぐゎあんと
いう
うなりに
変ってしまいました。
汽車が
ごうと
やってきました。
汽缶車の
石炭は
まっ赤に
燃えて、その
前で
火夫は
足を
ふんばって、
まっ黒に
立っていました。
ところが
客車の
窓が
みんな
まっくらでした。
すると
じいさんが
いきなり、
「 おや、
電燈が
消えてるな。
こいつは
しまった。
けしからん。」 と
云い
ながら
まるで
兎の
ように
せ中を
まんまるにして
走っている
列車の
下へ
もぐり込みました。
「あぶない。」と
恭一が
とめようとした
とき、
客車の
窓が
ぱっと
明るくなって、
一人の
小さな
子が
手をあげて
「明るくなった、
わあい。」 と
叫んで
行きました。
でんしんばしらは
しずかに
うなり、
シグナルは
がたりと
あがって、
月は
また
うろこ雲の
なかに
はいりました。
そして
汽車は、
もう
停車場へ
着いた
ようでした。
|