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【ワシントン26日瀬川至朗】米マサチューセッツ工科大の利根川進教授とマシュー・ウイルソン教授らのグループが、マウスの脳の特定領域の遺伝子をピンポイントで消し去る新しい技術を開発、何がどこにあるかを覚えている「空間記憶」の仕組みを遺伝子レベルから行動形態まで総合的に結びつけて解明することに成功した。27日付の米科学誌「セル」に掲載された。アルツハイマー病など脳の病気の解明に役立つ画期的な手法と注目されている。同じ種類の遺伝子を全身のすべての細胞から消し去る技術は、遺伝子ノックアウト技術と呼ばれ、すでに存在する。しかし、脳の複雑な機能の解明には役立ちにくかった。利根川教授らは今回、遺伝子ノックアウト技術などの応用で2種類の遺伝子操作マウスを作り、そのマウスをかけ合わせる手法で、全身の遺伝子ではなく、特定部分の特定遺伝子を欠損させることに成功。「局所遺伝子ノックアウト技術」ともいえるこの技術を使い、記憶をつかさどるとされる脳の海馬の「CA1」領域に多く含まれる特殊たんぱく質の遺伝子だけを欠いたマウスを作ることに成功した。正常なマウスと欠損マウスを水中に浅い台を沈めた容器内で泳がせると、欠損マウスは台の位置を覚えられずに泳ぎ続け、記憶の悪さがはっきりした。また、神経細胞同士をつなぐシナプスの働きが強化されることで記憶内容が蓄えられるという記憶メカニズムの理論があるが、今回、欠損マウスのシナプス結合を調べることでこの理論の正しさが証明されたという。分子レベルから神経レベル、行動レベルまで多層的に研究した結果、脳の記憶メカニズムがこれほどクリアになったのは初めて。カリフォルニア大サンディエゴ校のラリー・スキール博士は「本当なら、新しい時代の夜明けといえる」と高く評価している。