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読売新聞97/01/30 東京夕刊 社会面 02段

脳の中枢神経再生促す遺伝子 利根川進教授らが発見

 脳の中枢神経は一度切断すると再生しないとされているが、ノーベル生理学医学賞受賞者の利根川進・米マサチューセッツ工科大(MIT)教授=写真=らのグループは、「bcl(ビーシーエル)2」というがん遺伝子に中枢神経細胞の成長や再生を促進する働きがあることを発見、三十日付の英科学誌「ネーチャー」に発表した。神経が損傷したり変性したりした患者の治療へ向けた新たな研究の基礎になるという。

 マウスでも人間でも、網膜から視神経の軸索が延びて、中脳の視蓋(しがい)という部分につながっている。そこで、利根川教授らは、マウスの網膜と中脳の組織片を切り出して、接触させた状態で、試験管内で培養した。

 受精後十四日の胎児の網膜からは、多くの視神経の軸索が再生し、それが中脳組織の中に入っていった。ところが、受精後十八日を過ぎたマウスの網膜だと、軸索を延ばす視神経の数が急激に減少した。

 視神経の遺伝子を解析した結果、「bcl2」という遺伝子が再生に関係していることがわかった。さらに、遺伝子操作で「bcl2」を働きっぱなしにしたマウスの網膜だと、どんな年齢のマウスのものでも、視神経の軸索が再生することも突き止めた。

 「bcl2」が働き過ぎると、異常な細胞も死ななくなり、ある種のがんを起こすことが知られている。