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映像通信時代の新しいグループウェア設計
チームワークステーションとクリアボードの実現

映像通信型グループウェアの開発

 「グループウェア」とは、コンピュータ技術及び通信技術を用いて協同作業 を支援するアプリケーション(応用)システムの総称です。電子メール等の蓄積 型通信を利用したスケジュール管理ソフトウェアや文書の協同執筆支援ソフト ウェア、コンピュータ通信により同時に編集可能なグループエディタなどがそ の代表例です。

 最近では、映像通信技術を用いたワークステーション上でのビデオ会議シス テムなどのアプリケーションも出てきましたが、もっぱら映像は相手の顔を見 るためにしか利用されていません。そこで、相手の顔を見るだけではなく、協 同作業に不可欠な空間(協同作業空間)そのものを映像によりつくり出す新しい 映像通信型グループウェアの開発を進めました。この開発により、映像通信の 付加価値を大きく高めることが期待できます。

シームレスな仮想協同作業空間を目指すチームワークステーション

地理的に分散したグループ構成員(メンバ)があたかも同一の仮想ホワイトボー ドを囲み、そこに各人のアイデアを描き込みながら議論できるような、そんな 協同作業支援環境を提供する「チームワークステーション(TeamWorkStation) を構築しました。

 チームワークステーションは、コンピュータ、印刷物、手書き、ハンドジェ スチャなど、日常の仕事に使用している多様なメディアを同時に混在して利用 できる自由度の高い仮想協同作業空間を提供します。

- 誰でも気軽に使えるために

 グループウェアがその威力を発揮するためには、まず、メンバの大多数に共 通のツールとして受け入れられることが不可欠です。すなわち「クリティカル マス」の壁を超えることが必要です。

 従来のグループウェアでは、メンバ全員が特定機種のコンピュータ上で走る 特定のグループウェアの操作法を覚え、それを協同作業に使用しなければなり ませんでした。そのために、個人作業で使い慣れたツールとの間に生じる不連 続性が、グループウェア普及の大きな障害になっていました。チームワークス テーションはこの問題を解決しました。

 毎日の仕事で私たちは、ワープロや作図エディタなどのコンピュータから紙、 鉛筆、雑誌、本、更には電話などと多様なツールを使い分けています。また、 これらのツールに対する好みや使い方も、人により異なります。そこで、メン バ各人の仕事のスタイルを大きく変更することなく、使い慣れたツールやメディ アをそのまま協同作業にも利用できる「シームレス(縫目がない)」な協同作業 空間を提供することをチームワークステーション開発の目標としました。

 図1に基本コンセプトであるシームレスな協同作業空間の概念図を示します。 チームワークステーションは、各人が使い慣れたコンピュータツール(例えば ワープロ)と、マニュアルツール(鉛筆と紙)を自由に協同作業空間に持ち込ん で、同時並行的に使うことを初めて可能にしました。

- チームワークステーションの構成

 チームワークステーションは、映像通信と連動した映像オーバレイ技術を核 にして、パソコン(マッキントッシュ)上に構築されます。その基本アイデアは、 メンバ各人の個人作業空間映像(パソコン画面あるいは机上の実映像)の半透明 オーバレイ共用です。メモリ上で論理的に連続した個人用画面と共用画面を備 え、両者の間でスムーズなデータ/アプリケーションプログラムの移動が可能 です。

 更に、机上の電気スタンドに取り付けられたCCDカメラで実写した机上の紙 や、雑誌、手書きの映像、そしてリアルタイムのハンドジェスチャも遠隔地の メンバと共用することができます。そのため、他のメンバが提示した文書の一 部を自分の手やペン、マウスで指し示したり、あるいはペンやコンピュータツー ルを用いてコメントを自由に書き込むことができます。

 図2にプロトタイプの外観を、図3に共用画面の一例を示します。図3に示す ように、チームワークステーションでは、従来は全く別世界であったコンピュー タツールとマニュアルツールとを、初めて混在して同時に利用することができ るようになりました。

 メンバ各人は、自分の使い慣れたツールをそのまま協同作業に持ち込むこと ができるため、新しいツールの操作を覚える必要はなく、個人作業とグループ ワークの間をスムーズに行ったり来たりすることができます。

- チームワークステーションを利用して

 このチームワークステーションをグループ内の設計打合せに試験的に使用し ていますが、このシステムの面白い応用例として、書道の遠隔指導の実験を行 いました。書道の実験を通して、紙の上に書かれた結果を共有することよりも、 それを書くダイナミックなプロセス(手首の使い方、筆の運び方など)を先生と 生徒間で共有できることが、極めて有意義であることを発見しました。これは ホワイトボードを用いた会議の支援においても極めて重要な知見です。

 なぜなら、私たちはホワイトボードに描かれたマークだけを理解してコミュ ニケーションしているのではなく、マークの空間的位置、発話との関連、描く ときの手のジェスチャなど、多様な情報を総合的に解釈して理解しているから です。マークが生成された文脈情報をそぎ落としてマークそのものだけを伝送 しても、人間同士のコミュニケーションはうまくいかないと思われます。


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