章 5章. ストレージを管理する

システム管理者にとって日常的にもっとも時間をとられることがあるとすれば、ストレージの管理になるでしょう。ディスクの空き容量不足、過剰な I/O アクティビティでオーバーロードになる、不意にフェールするなどがあります。したがって、正しいシステム管理を行えるようにディスクストレージの確固とした実践知識を身に付けることが不可欠になります。

5.1. ストレージハードウェアの概要

ストレージ管理の前に、まずデータが格納されているハードウェアを理解する必要があります。少なくとも大容量ストレージデバイスの操作についてある程度の知識がない限り、ストレージ関連の問題に突き当たりその問題を解釈するのに必要なバックグラウンドとなる知識が不足していることがあるかもしれません。根本的なハードウェアの動作方法についてある程度理解すると、コンピュータのストレージサブシステムが正しく動作しているかどうかを容易に判断できるようになるはずです。

大容量ストレージデバイスの大半はある種の回転メディアを使用し、そのメディア上にあるデータへのランダムなアクセスをサポートしています。つまり、次のコンポーネントはなんらかの形でほぼすべての大容量ストレージに存在しています。

次のセクションではこれらの各コンポーネントの詳細を解説していきます。

5.1.1. ディスクプラッタ

ほぼすべての大容量ストレージデバイスが使用する回転メディアは 1 枚または複数枚の平たい円盤型プラッタの形状をしています。プラッタはアルミニウム、硝子、ポリカーボネートなどさまざまな材料で作られています。

各プラッタの面はデータが保存できるように処理されています。処理方法は使用されるデータストレージ技術により異なります。もっとも一般的なデータストレージ技術は磁性体をベースにしています。こうした場合、プラッタは磁気の属性を発揮する化合物が塗布されています。

もうひとつ一般的なデータストレージ技術として光学原理に基づいたものがあります。プラッタは変更が可能な光学体の材料が塗布されていますので、光学的にデータを保存することができます[1]

使用するデータストレージ技術に関係なく、ディスクプラッタは回転することにより表面全体が別のコンポーネント(データ読み書きデバイス)を通過するようになっています。

5.1.2. データ読み込み/書き込みデバイス

データの読み込み/書き込みデバイスは、動作するコンピュータシステム上でビットとバイトを取り込んで、それをディスクプラッタの表面に塗布されている素材と作用し合う必要がある磁気または光学タイプに変換するコンポーネントです。

これらのデバイスが動作するのに必要とされる条件には厳しいものがあります。例えば、磁気ベースの大容量ストレージでは読み書きデバイス(ヘッドと呼ばれる)がプラッタの面に非常に接近しなければなりません。しかし、ヘッドとディスクプラッタの面が接触してしまうと、ヘッドとプラッタが摩擦していずれも損傷してしまいます。したがって、ヘッドとプラッタの面は入念に磨かれ光沢があり、ヘッドはプラッタを回転させて生じる空気圧を利用してプラッタの面を浮かします。浮いている高さは髪の毛以下の薄さです。磁気ディスクドライブが振動、急激な気温変化、空気中に浮遊する混濁物などに弱いのはこのためです。

光学ヘッドの場合は磁気ヘッドと比べ幾分異なります。— ヘッドのアセンブリはプラッタの表面から一定の距離を保っている必要があります。プラッタに焦点を合わせるためのレンズが十分に鮮明なイメージを生成するためです。

いずれの場合も、ヘッドはデータの保存にプラッタの表面のごくわずかな部分を使用します。プラッタはヘッド下で回転するので、この表面部分は極細の円形ラインを形成します。

これが大容量ストレージデバイスの動作方法であるとすれば、プラッタ表面の 99% 以上が無駄になっていることになります。プラッタに追加ヘッドをマウントすることはできますが、プラッタの表面分を十分に利用するには数千ヘッドが必要になります。ヘッドをプラッタの表面全体に移動させる手段が必要になってきます。

5.1.3. アクセスアーム

プラッタの表面全体を通過することができるアームに取り付けたヘッドを使ってデータの保存にプラッタを十分利用することができるようになります。ただし、アクセスアームには次の機能が必要になります。

  • 高速な移動

  • 精密な移動

アクセスアームはできるだけ早く移動しなければなりません。ある場所から別の場所へヘッドを移動させている時間は無駄な時間だからです。アクセスアームが移動を停止するまでデータの読み取りも書き込みも行うことができません[2]

アクセスアームは非常に精密に移動することができなければなりません。前述した通り、ヘッドが使用する表面部分がごくわずかだからです。したがって、プラッタの保存容量を有効に利用するには、新しい場所に書き込まれるデータが前の場所に書き込まれたデータをちょうど上書きしない分だけヘッドを移動する必要があります。これは、プラッタの面を数千の同心円上の"環"またはトラックに概念的に分割することに影響していきます。あるトラックから別のトラックへのアクセスアームの動きはシークと呼ばれることが多く、あるトラックから別のトラックへアクセスアームが移動する時間はシーク時間と呼ばれています。

プラッタが複数ある場合(またはデータ保存に両面を使用するプラッタ)、各面用の複数のアームが積み重なって各面の同じ位置にある複数のトラックに同時にアクセスできるようにします。特定のトラックを通過するアクセスを静止状態にして各面の複数のトラックを視覚化できるならば、積み重なって円筒状を形成しているように表されます。したがって、アクセスアームの特定の位置にあるトラックの集合はシリンダと呼ばれています。

注記

[1]

オプティカルデバイス — 特に、CD-ROM ドライブ — の中にはデータストレージに幾分異なる手段を用いるものがあります。この違いは本章で述べられています。

[2]

光学デバイスの中には (CD-ROMドライブなど)、アクセスアームが絶えず移動し続けているものがあり、ヘッドのアセンブリがプラッタの表面にらせん状のパスを描きます。これはストレージ媒体の使用用途における根本的な違いであり、特定のデータポイントを検索するよりも連続的なデータの取り出しが一般的な操作である音楽保存用媒体としての CD-ROM の起源に反映しています。