5.3. 大容量ストレージデバイスのインターフェース

コンピュータシステムで使用される各デバイスにはコンピュータシステムに接続する何らかの手段が必要です。この接続ポイントはインターフェースと呼ばれています。大容量ストレージデバイスも同じで、インターフェースを持っています。インターフェースを理解することが重要である理由として 2 つあります。

残念ながら、単一の汎用デバイスインターフェースはなく、大容量ストレージデバイスのインターフェースもひとつではありません。したがって、システム管理者は企業内のシステムがサポートするインターフェースを知っておかなければなりません。システムのアップグレードが立案されたとき、誤ったハードウェアを購入していると非常に危険が伴います。

異なるインターフェースはそれぞれ異なる性能があり、特定の環境には他のインターフェースにくらべてより適したものがあります。例えば、高速デバイスのサポート機能があるインターフェースはサーバ環境に適していますが、使用頻度がそれほどでもないデスクトップには低速のインターフェースで十分でしょう。性能の違いは値段にも影響してきます。つまり、— 常に — 値段に見合うパフォーマンスを購入するということです。高性能のコンピュータ構成はそれなりのコストがかかります。

5.3.1. 歴史的な背景

長年に渡り、大容量ストレージデバイス用のインターフェースが数多く作られてきました。使用されなくなったものもあれば、今日でも使用されているものもあります。次の一覧では過去 30 年間に渡るインターフェース開発の簡単な歴史を紹介し、今日使用されているインターフェースの展望を見ていきます。

FD-400

最初の 8 インチフロッピーディスクドライブ用に 70 年代中頃に設計されインターフェースです。電力とデータの両方を供給する回線盤エッジコネクタが付いた 44 コンダクタケーブルが使用されています。

SA-400

もうひとつのフロッピーディスクドライブのインターフェースです (70 年代後半、次に出た 5.25 インチフロッピードライブ用に開発されたもの)。標準ソケットコネクタが付いた 34 コンダクタケーブルを使用しています。若干改良されたこのバージョンのインターフェースは 5.25 インチフロッピーと 3.5 インチディスケットドライブに今日でも使用されています。

IPI

Intelligent Peripheral Interface の略で、このインターフェースは 1970 年代のミニコンピュータに配備された 8 インチ及び 14 インチのディスクドライブに使用されていました。

SMD

IPI の後継となる SMD (Storage Module Device の略)は 70 年代から 80 年代に 8 インチ及び 14 インチのミニコンピュータハードドライブに使用されていました。

ST506/412

80 年代初期からのハードドライブインターフェースです。当時は多くのパーソナルコンピュータに使用されていました。このインターフェースは 2 本のケーブルを使用していました — 34 コンダクタと 20 コンダクタの 2 本です。

ESDI

Enhanced Small Device Interface の略で、このインターフェースは高速な転送率と大きなドライブサイズがサポートされた ST506/412 の後継と考えられていました。80 年代中頃から、ESDI は前と同じ 2 ケーブル接続スキームを使用していました。

当時、大企業コンピュータベンダ (主に IBM や DEC など)から専売のインターフェースが販売されていました。こうしたインターフェースの開発の裏には、コンピュータ関連周辺機器ビジネスから生まれる莫大な利益を守ろうとする動きがありました。しかし、専売特許の性質上、こうしたインターフェースと互換性のあるデバイスは同等の非専売特許デバイスと比べると値段が高くなるために長期的には普及しませんでした。

専売特許のインターフェースが後退していき、このセクションの冒頭で述べたインターフェースはマーケットシェアを失って行く半面、これら使用されなくなったインターフェースについて理解することは重要なことです。コンピュータ業界で永続するものはないということを証明しているからです。したがって、新しいインターフェース技術に常に着目しているようにしてください。将来、現在使用している従来のものよりニーズにより合ったものが出て来る可能性があります。

5.3.2. 今日の業界標準インターフェース

前のセクションで述べた専売特許のインターフェースとは異なり、幅広く採用され業界の標準となった物がありました。特に、この推移時期に現れ、今日のストレージ技術の根幹となったインターフェースが 2 つあります。

5.3.2.1. IDE/ATA

IDE は Integrated Drive Electronics の略です。このインターフェースは 80 年代後半に考案され、40ピンコネクタを使用しています。

注記注記
 

このインターフェースの本来の名前は "AT Attachment" インターフェース (ATA) ですが、"IDE" (実際には ATA 互換の大容量ストレージデバイスを指す) という用語が使われていることもあります。しかし、本セクションでは本来の名前である ATA を使用しています。

ATA はバストポロジを実装し、各バスは大容量ストレージデバイスを 2 つサポートしています。これら 2 つのデバイスはそれぞれマスタースレーブと呼ばれています。この呼び方はデバイス間の関係が実際とは異なる意味を示すため誤解されます。どのデバイスがマスターで、どのデバイスがスレーブかを決定するのは通常、各デバイスのジャンパブロックの使用によって選択されます。

注記注記
 

最近、ATA に採用された革新的な機能がケーブルセレクトです。この新機能には 特殊なケーブル、ATA コントローラ、ケーブルセレクトをサポートする大容量ストレージデバイスを使用する必要があります(通常、"ケーブルセレクト"ジャンパ設定を使用)。正しく設定すると、デバイスの移動時にジャンパを入れ換える必要がなくなり、ATA ケーブル上のデバイスの位置でマスターかスレーブかを示します。

このインターフェースのさまざまな種類がテクノロジーの融合においてその特色を示し、次世代の業界標準インターフェースをもたらします。ATAPI は ATA インターフェースの一種で AT Attachment Packet Interface の略です。主に CD-ROM ドライブに使用され、ATAPI は ATA インターフェースの電気的、構造的な部分に準じていますが、次に説明するインターフェース SCSI から通信プロトコルを使用しています。

5.3.2.2. SCSI

今日 SCSI として知られる、正式名称 Small Computer System Interface は 80 年代初期に考案され、1986 年に標準化されました。ATA と同様、SCSI はバストポロジを使用しています。ただし、類似した点はこれだけです。

バストポロジを使用するということは、バス上の各デバイスが何らかの形で固有に認識される必要があります。ATA は各バスごとに 2 種類のデバイスしかサポートせず、それぞれに固有の名前を付けます。SCSI はこれを SCSI バス上の各デバイスに固有の数値アドレスまたは SCSI ID を割り当てることによって行います。SCSI バス上の各デバイスはその SCSI ID に応答するよう設定されていなければなりません(通常、ジャンパまたはスイッチで設定[1]を使用)。

これについて詳細を説明する前に、SCSI 標準は単一のインターフェースを指すのではなく、インターフェースのひとつの系列のことです。SCSI の種類によって異なる点がいくつかあります。

  • バス幅

  • バス速度

  • 電気的な特性

従来の SCSI 標準ではバストポロジになっていて、データ転送にはバス内で 8 ラインを使用するとなっていました。つまり、最初の SCSI デバイスは一度に 1 バイトづつデータを転送することができたということです。その後、標準が拡張され 使用ラインが 16 まで実装できるようになり、デバイスが転送できるデータ量が 2 倍になりました。従来の "8 ビット" SCSI の実装はnarrow SCSI と呼ばれるようになり、新しい 16 ビット実装は wide SCSI と呼ばれるようになりました。

本来、SCSI のバス速度は 5MHz に設定され、最初の 8 ビット SCSI バスでは 5MB/秒の転送率になっていました。しかし、後に続く標準の改定で速度は 2 倍の 10MHz になり、narrow SCSI の場合は 10MB/秒、 wide SCSI では 20MB/秒の転送率になりました。バス幅と同様に、バス速度の変化により名前も新しくなり、10MHz のバス速度はfastと呼ばれるようになりました。続々と続く改良により、バス速度はさらにultra (20MHz)、fast-40 (40MHz)、fast-80と高速化していきました[2]。さらなる転送率の向上は数種類の ultra160 バージョンのバス速度につながって行きます。

SCSI の各種構成はこれらの名前を組み合わせて表現されます。例えば、"ultra-wide SCSI" なら 20 MHz で動作する 16 ビット SCSI バスのことになります。

従来の SCSI 標準はシングルエンド信号を使用していました。これは電気的な信号を 1 本の信号線を使って送信する電気的な形態のことです。その後、2 本の信号線を使って送信するディファレンシャル信号の使用も許可されました。ディファレンシャル SCSI (後に high voltage differentialまたは HVD SCSI に名称変更)には電気的なノイズの影響を軽減するという利点がありケーブル長も長くすることができますが、コンピュータ市場では主流になり得ませんでした。後に定義されたlow voltage differential (LVD) が最終的には主流となり、バスの高速化には必要条件となります。

SCSI バスの幅とは単にクロックサイクルごとに転送できるデータの量を指すだけでなく、バスに接続できるデバイス数も定義します。通常の SCSI は固有アドレスデバイスを 8 つサポートし、wide SCSI は 16 までサポートします。いずれの場合も、デバイスがすべて固有の SCSI ID を使用するよう設定されていることを確認してください。1 つの ID が 2 つのデバイスで共有されるとデータ破損の原因になることがあります。

他に注意しておくことは、バス上のデバイスはすべてそれぞれの ID を使用するということです。SCSI コントローラも例外ではありません。これを忘れてしまい、あるデバイスがバスのコントローラと同じ SCSI ID を使用するよう無意識に設定してしまうシステム管理者が非常に多くいます。また、実際問題として、各バスはコントローラの ID を 1 つ確保しなければならないため 1 つのバス上にデバイスが 7 つしか表示されないことがあります。

ヒントヒント
 

SCSI の実装には SCSI バスのスキャンという意味も含まれます。これはすべてのデバイスが正しく設定されていることを確認するためによく使われます。バスのスキャンがそれぞれの SCSI ID に対して同じデバイスを返してくる場合、そのデバイスは SCSI コントローラと同じ SCSI ID に設定されてしまっています。この問題を解決するには、そのデバイスを再設定して別の(固有) SCSI ID を使用させるようにします。

SCSI のバス志向のアーキテクチャのため、バスの両端を正しくターミネートする必要があります。SCSI バスを構成するそれぞれのコンダクタに正しく電気的なインピーダンス負荷を置くことによって行います。これは電気的に必要なことで、行なわれないとバス上にある各種の信号がバスの終端で反射し、信号波形が乱れてしまいます。

多くの(すべてではありませんが) SCSI デバイスはジャンパやスイッチを使ってオン/オフできる内蔵ターミネータが付いています。また、外付けのターミネータもあります。

SCSI について最後に注意しておきたいことは — 単に大容量ストレージデバイスのインターフェース標準であるだけではないということです。他にも多くのデバイス(スキャナ、プリンタ、通信デバイスなど)が SCSI を使用しています。SCSI 大容量ストレージデバイスほど一般的ではありませんが存在しています。しかし、USB や IEEE-1394 (Firewire と呼ばれる場合が多い)の出現で、これらのインターフェースは将来的にはこの種のデバイスに使用されることが多くなってくるでしょう。

ヒントヒント
 

USB 及び IEEE-1394 インターフェースは大容量ストレージの領域に普及し始めています。しかし、ネイティブな USB や IEEE-1394 大容量ストレージデバイスは現在、存在していません。代わりに提供されているのが 外付け変換回路の付いた ATA や SCSI デバイスベースのものです。

大容量ストレージデバイスが使用するインターフェースの種類に関わらず、デバイス内の動作がその性能に関係してきます。次のセクションではこの重要項目について説明します。

注記

[1]

ストレージハードウェアの中にはモジュールをプラグする動作で自動的に SCSI ID を適切な値に設定するようデザインされているものがあります(通常、これらのハードウェアはリムーバルドライブの"コンテナ"を組み込んでいる)。

[2]

Fast-80 は技術的にはバス速度が変化したのではなく、40MHz バスが維持されたままクロックパルスごと上りと下りの両方でデータがクロックされ、効果的にスループットを 2 倍にします。