無量寿経曼陀羅
       

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はじめに

 この曼陀羅はオーストラリア出身で長年京都に居られた著名な仏教詩人、故ハロルド・スチユアート先生が1970年代に京都で購入されたもので、この種の浄土曼陀羅が存在することはまだ広く世に知られていない。近年、無量寿経曼陀羅を模倣した絵の複製が市販されているが、原図はこれと同系統で江戸時代のものと推定される。縦139センチ、幅68センチの木版画に着色した掛け軸様式で、極彩色に純金を使い、浄土の荘厳と『無量寿経』の概要を巧みな筆致で描き出している。三尊の印相(いんぞう)を始め、構図で当麻(たいま)曼陀羅に類似するところが多く認められる。諸処に『無量寿経』からの引用の語句や説明が黒地の紙片の上に、また一部、朱色の柱の上に金泥で書き入れられてある。最下部では三悪道、特に八大地獄の苦しみが現実的に描かれている。

 [表] 

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[D] 三種の往生人
 1. 上輩,  2. 中輩,  3. 下輩 (ch.23-25)
_________________________________________________________
[E]  釈迦の善行のすすめ
2. 仏の徳化, 1. この世での善行 (ch.40)
____________________________________________________________
[B]  法蔵菩薩の発願と修行


7. 優れた功徳の完成
 (ch. 9)

6. 菩薩行の実践 (ch. 9)


5. 本願の宣布 (ch. 9)


4. 五劫の思惟 (ch. 6)

3. 世自在王仏が諸仏の国を法蔵に示す (ch. 6)


2. 法蔵の出家 (ch. 5)

1. このお経を将来世に
留める (ch. 47)
_____________________________________
[C]  浄土の荘厳


20. 虚空を荘厳する網 (ch. 20)
19. 菩薩の往来 (ch. 28,42,46)
18. 光明の変現相 (ch. 21)
16-17. 宮殿 (ch. 20)
15. 菩提樹 (ch.15)
13-14. 池と花 (ch.16)
11-12. 往生人のための宮殿 (ch.17
9-10. 講堂 (ch. 29)
8. 阿弥陀仏、観音菩薩、勢至菩薩 (ch. 11, 28)
7. 来訪した菩薩と往生した人 (ch. 23, 26)
5-6. 大地 (ch. 20,21)
4. 池 (ch. 16)
2-3. 樹木 (ch.14)
1. 舞楽 (ch. 10,27)
----------------------------------
[A]  釈迦の説法
1. お経の始め - 霊鷲山 (ch. 3)
2. 浄土を示す (ch. 41)
3. 弥勒に付属 (ch. 47)
_________________________________________________________
[F]  三つの悪行にたいする誡め
(ch. 31)



















_____________________
[G]  五つの悪と苦しみの結果
(ch. 35-39)

(3) 八大地獄
[H]  三つの苦しみの世界
(ch. 35-40)

(2)      (1)
8.阿鼻
__________
7.大焦熱
_____________
6.大叫喚
____________
5.焦熱
__________
4.叫喚
__________
3.衆合
__________
2.黒縄
__________
1.等活
__________
餓鬼道
__________
畜生道
__________

[注] 表中の章のナンバーは真宗聖典編纂委員会の編纂になる『浄土真宗聖典(注釈版)』(1988発行)で使用されている章のナンバーと同じです。また稲垣久雄英訳本の章ナンバーとも同じです。

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 構図と内容

 内容と構図から見て全体を八つに分類できる。 

(A) 釈迦の説法     

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中央の大きな区画の最下部は雲で仕切られた三つの部分に分かれる。@序分。右下隅がお経の始めで、マガダ国の首都、王舎城郊外の耆闍崛山(ぎしゃくせん、または霊鷲山)で釈尊が一万二千人の比丘と無数の菩薩などに囲まれ、阿難に対しておられる。前面の剃髪した僧は声聞(しょうもん)で、釈尊の後ろには長髪の菩薩と、大きな冠を着けた神々が見える。釈尊の右に白衣の気高い人が立っているが、これは「十六正士」として知られる在家の菩薩の代表者である賢護(げんご)であろう。A正宗分(しょうしゅうぶん)。その左がお経の主要な部分で、特に聴衆が阿弥陀仏と浄土を拝見した模様が描かれている。お経の終わり近く五悪段の後で、阿弥陀仏は大光明を放ち、それによって諸仏の世界と須弥山(しゅみせん)を中心とする世界が照らされる。真ん中のくびれた山が須弥山で、その上の雲の中に諸仏の世界が宮殿として現わされている。またこの光で聴衆は阿弥陀仏と浄土の荘厳を明確に見ることが出来た。皆の拝した弥陀と浄土は上部中央の(C)で示される。手前に座っている僧が阿難で、その左に長 髪の弥勒(みろく)菩薩が他の聴衆と同じく合掌し、浄土に向かっている。B流通分(るずうぶん)。左の隅がお経の終わりで、釈尊は『無量寿経』を永く後世に伝えるよう、特に前に座っている未來仏の弥勒菩薩に委嘱しておられる。

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(B) 法蔵菩薩の発願と修行

曼陀羅の左に縦に七つの区画がある。@一番下は法滅の時代に入って他のお経が無くなっても『大無量寿経』が存続していることを示す場面である。裸の二人は福徳のなくなった衆生を表し、彼らは最後の拠り所としてこのお経を拝んでいる。この区画の上に法蔵菩薩の発願と、修行が完成して功徳が成就する様子が順次上方に向かって描かれている。A先ず法蔵はご自身の国王の位を捨てて沙門になる。王冠や豪華な衣裳を捨て、髪を剃りかけており、一人の大臣がひざまずき、二人のお供が別れを惜しんで泣いている。B次に世自在王(せじざいおう)仏のもとで二百十億の諸仏の浄土を観じ、諸仏の成仏の因縁を学ばれる。Cしりぞいて山中とおぼしき処で五劫の間思惟される。Dいよいよ本願が出来たのでそれを世自在王仏と大衆の前で宣布される。その時大地が六種に震動し、天から妙華が降り音楽が聞こえてくる。Eその上が法蔵菩薩の修行で、長者になったり諸天の姿になり、諸仏を供養し、自 ら六波羅密を修行し、また人に法を説き、菩薩行を教えられる。F最後に功徳が完成して体から栴檀(せんだん)の香を出し、手から無数の宝・衣服・飲食や種々の荘厳の物を顕わされる。

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(C) 浄土の荘厳


阿弥陀三尊を中心とする中央の一番広い区画が浄土である。二十の区画に分けて考察出来る。下から見ると、@舞台。大きな舞台があり、往生人が感謝と讃嘆の舞いを踊り、楽を奏している。AB宝樹。舞台の左右に宝樹がある。C宝池。池の中では種々の蓮華が咲き、水の深さは思いのままで、往生人が水浴を楽しんでいる。DE宝地。テラスのように中央に向かって出ているのが大地で、左のテラスでは三本の絨毯(お経では妙衣)が敷かれている。F往生人と往詣の菩薩。池の一番奥で蓮華の上に中輩と下輩の往生人が座っており、奥の広間では上輩の人と他方からの菩薩衆が座って弥陀の謁見をたまわっている。立っている二人の菩薩は往生人を歓迎している。G弥陀三尊弥陀観音勢至が諸菩薩に囲まれて宝蓮華の座に座っておられる。弥陀の印相は当麻マンダラの伝統をそのまま引き継ぎ、説 法印(転法輪印)(證空は「法報応三身の印」と解す)を結んでいる。三尊には際だった頭光(または円光)があり、弥陀は広大な身光を放ち、頭上に豪華な天蓋を戴く。HI宮殿。左右の楼閣のうち一番下にあるのは大講堂で、右では阿弥陀仏が、左では菩薩が説法している。JK三尊のやや上の左右の楼閣が往生人の居る宮殿で、快楽を楽しんでいる。LM宝池華樹。宝池が奥まで拡がり、蓮華が咲き乱れ、岸に栴檀樹がある。N弥陀の後の建物には菩提樹が納められてあり、四本の宝幢の後ろにその一部が見える。右の朱色の柱に「仏道場樹」と書かれている。OP宝楼宮殿。三尊の後方には左右に楼閣があり、衣服・飲食・荘厳が自由に現れる様が描かれている。Q光変。宮殿楼閣の上方には光明の変化した荘厳が大きく拡がり、その中央に三尊の化身が見える。R虚空の下方。菩薩の往来。空一面、天の華が舞い、顏が天女の迦陵頻迦(かりょうびんが)などの鳥が飛び、種々の楽器が 浮かんでいる。その中に雲に乗った諸仏菩薩の往詣があり、飛天が華を供養している。S虚空の上方。宝網。天の最上層には羅網の荘厳が垂れている。宝網が虚空荘厳であることについて、天親菩薩は『浄土論』で「無量宝交絡、羅網遍虚空、種々鈴発響、宣吐妙法音」と述べておられる。

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(D)三種の往生人

上部の左端から三つの区画が三輩の往生人である。@上輩。出家して菩提心を起こし、一心に弥陀を念じ功徳を積む者は臨終に来迎にあずかり、浄土に往生する。A中輩。在家のままで菩提心を起こし、念仏して善行を修し、功徳を積んで浄土に往生しようと願う者は、臨終に弥陀の化身の来迎にあずかり往生する。B下輩。あまり善いことが出来なくても一心に弥陀を念じ往生を願う者は、臨終に夢のような状態で弥陀の来迎を拝し、浄土に往生する。

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(E) 釈迦の善行の勧め

次の二つの区画のうち、右端は@此土修善。この世で善を行うことを勧めるところで、僧がねんごろに人を教化し徳を積んでいる。A天下和順(てんげわじゅん)。その左は、仏教に従って人が相い和し、争い無く、平和な生活を営んでいる有様を示している。

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(F) 三つの悪行にたいする誡め
全体の右側の細長い区画はお経では「三毒段」に当たり、世の中の人が貪欲・瞋恚・愚癡の三毒の煩悩に狂って悪行を重ねている痛ましい姿である。上から下へ経説に従って読んでゆく。上部と中部の拡大図参照。

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(G) 五つの悪と苦しみの結果

下部は二段になっている。上の段は「五悪段」で、右から左に五の区画で「一大悪痛焼」から「五大悪痛焼」の有様を克明に描いている。@一大悪では殺人や殺生をしてその報いを受ける様子が見られ、A二大悪では王が臣下に騙される場面や、悪党が悪だ組をしたり、けちん坊の金持や盗人が描かれている。B三大悪では不倫、浪費、暴力、闘争などが行われており、C四大悪では尊大な人、不孝者、悪口を言ったり中傷する者があり、D五大悪では酒乱、親不孝の者、お経を焼いている者、またその結果として惨めな生活をしている姿が描かれている。          表に戻る全体画像に戻る


(H) 三つの苦しみの世界

最下部は「五悪段」の「三塗無量苦悩」を受けて描いた三悪道の姿で、右端に畜生道と餓鬼道を簡単に描き、大部分は八大地獄のすさまじいばかりの描写である。右から左に見てゆく。@等活(とうかつ)地獄。罪人が様々な責め苦にあっているが、死ぬと獄卒の声で生き返りまた苦しみを受ける。A黒縄(こくじょう)地獄。長い熱鉄の縄が二本張られているところを罪人が歩かされる。落ちると猛火が待ちかまえている。また熱鉄の縄が罪人の体に巻かれ、縄に沿って熱鉄の刃物で切り裂かれる。B衆合(しゅごう)地獄。木から吊るされて焼かれる者、大きな岩でつぶされる者、木の上の美女を追って刃の葉で身を切る者が描かれている。C叫喚(きょうかん)地獄。鉄棒で火の中に追いやられる者、火の中に投げ込まれる者、口から熱鉄のようなものを押し込まれている者などが見える。D焦熱(しょうねつ)地獄。罪人が串刺しにされ火で焼かれている。E大叫喚(だいきょうかん)地獄。熱鉄の釘 抜きで舌を抜かれたり、眼をくり抜かれている者が見える。F大焦熱(だいしょうねつ)地獄。大きな火の中に罪人が追いやられる。G阿鼻(あび)地獄。一番底にある一番大きな地獄。至る所が火で、そこには猛火を吹いている大きな銅製の犬や、十八の角のある牛の頭を八個持った獄卒が火を吹き罪人を焼いている。また大蛇も毒と火を吹いている。地獄の説明は『無量寿経』にはないが、源信の『往生要集』に基づいて克明に描写している。これは業道の恐ろしさを示し、厭離穢土・欣求浄土(えんりえど・ごんぐじょうど)を勧めるものである。

 [参考文献] 稲垣久雄著 『浄土三部経 英訳と研究』 永田文昌堂発行、第二版1995年、第三版2000年、26-313頁。

 リンク: 浄土マンダラ研究会  

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