ま と め


書き言葉の指導が始まると、「まるで新しい言語のようだ」「今まで全く知らなかった」というコメントが学習者から寄せられることがあります。教師が想像する以上に、学習者にとって書き言葉は未知のものなのかもしれません。そのような中、学習者の作文から次第に口語表現が消え、書く内容に見合った文体で書けるようになっていく過程を見るのは教える側にとっても大変励みになります。しかし、せっかく習得した書き言葉の使い方も、単語や漢字と同様に、その後使うことがなければ忘れてしまいます。従って、一学期でやりっぱなしではなく、その後も繰り返し強化していくことが重要だと思われます。

また、中級から上級への移行を円滑に行うためには、中級からの下地作りも不可欠でしょう。中級レベルでも普段から話し言葉と書き言葉の区別を意識させる習慣をつけるように指導し、単文ばかりではなくまとまった文章や段落を書く練習を重ねておけば、上級になった時の学習者の戸惑いが軽減し、書き言葉の指導もより効果的になるはずです。

書き言葉の文体の習得は、あくまでも上級レベルの作文力到達への第一歩に過ぎません。真の上級レベルに達するには、批判的思考・抽象的概念を論理的に文章で表現する訓練の積み重ねと、段落や作文全体の構成の仕方、議論の展開を考える力の養成など、指導が必要なことはまだまだ沢山あります。

実施ごとに新しい発見があり、課題も生まれる書き言葉の指導ですが、 アンケートで得た意見や要望を今後の教材開発に役立てるとともに、学生のニーズの変化も考慮しながら、口頭のコミュニケーション力だけでなく、書く力も上級にふさわしいものになるよう、より総合的な「使える力」の養成を目指していきたいと思います。